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大阪地方裁判所 昭和63年(わ)4547号 判決

本籍

福岡県直方市大字下境一六二七番地

住居

福岡市城南区鳥飼五丁目一九番一〇号 高田ビル一〇一号

公認会計士

松岡正一

大正一四年三月一五日生

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官梶山雅信出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年六月及び罰金二〇〇〇万円に処する。

未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福岡市内に会計事務所を置く公認会計士であり、大阪市淀川区西中島四丁目四番一一号(昭和六一年七月ころまでは大阪府羽曳野市向野三丁目一一番三号)に本店を置き、いわゆるパチスロ等の遊技機の製造、販売等を目的とする資本金四〇〇〇万円(昭和六一年二月一九日までは一〇〇〇万円)の分離前の相被告人東京パブコ株式会社(以下、「東京パブコ」という。)、前同所(昭和六一年七月二四日までは大阪市淀川区西中島四丁目五番二〇号)に本店を置き、前同様の遊技機の製作、販売等を目的とする資本金四〇〇万円の分離前の相被告人株式会社エル、アイ、シー(以下、「エルアイシー」という。)及び大阪府豊中市寺内二丁目三番一五号(平成元年一月二五日までは同市寺内二丁目三番四号)に本店を置き、前同様の遊技機の販売等を目的とする資本金三〇〇〇万円のオスカー物産株式会社(以下、「オスカー物産」という。)の経理、決算及び税務申告等に関する事項等についてそれぞれ嘱託を受けていたものであるが、

第一  東京パブコの代表取締役としてその業務全般を統括していた分離前の相被告人古田収二及び同山田正明と共謀の上、東京パブコの業務に関し、その法人税を免れようと企て、架空の仕損品廃棄損失を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、東京パブコの昭和六〇年九月一日から昭和六一年八月三一日までの事業年度における実際所得金額が二三億二七一万六一四六円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同年一一月二八日、大阪市淀川区木川東二丁目三番一号所在の所轄東淀川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億四四九九万一〇三円で、これに対する法人税額が一億三八七八万三三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により東京パブコの右事業年度における正規の法人税額九億八六四七万八六〇〇円と右申告税額との差額八億四七六九万五三〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れた

第二  エルアイシーの代表取締役等としてその業務全般を統括していた前記古田収二及び同山田正明と共謀の上、エルアイシーの業務に関し、その法人税を免れようと企て、架空の仕入れを計上するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、エルアイシーの昭和六〇年一〇月一日から昭和六一年九月三〇日までの事業年度における実際所得金額が一五億一六八万八七六三円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同年一二月二六日、前記東淀川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四億三七一万三一二三円で、これに対する法人税額が一億七一六八万九一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為によりエルアイシーの右事業年度における正規の法人税額六億四七一一万二三〇〇円と右申告税額との差額四億七五四二万三二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた

第三  オスカー物産の代表取締役としてその業務全般を統括していた片岡一雄と共謀の上、オスカー物産の業務に関し、その法人税を免れようと企て、架空の販売手数料を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、オスカー物産の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が三億二八〇六万七五四〇円あった(別紙(五)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年六月一日、大阪府池田市城南二丁目一番八号所在の所轄豊能税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六四九万八五九五円で、これに対する法人税額が六八一万六三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為によりオスカー物産の右事業年度における正規の法人税額一億三七三九万五七〇〇円と右申告税額との差額一億三〇五七万九四〇〇円(別紙(六)税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

(注)括弧内の算用数字は、押収番号を除き、証拠等関係カード検察官請求分の請求番号を示す。

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  第四八回、第五九回及び第六一回公判調書中の被告人の各供述部分

一  被告人の検察官に対する昭和六三年一一月一六日付、同年一二月三日付、同月七日付、同月一〇日付(376)、同月一四日付、同月二一日付(380)及び同月二二日付(381)各供述調書

一  岡嶋貞夫の検察官に対する供述調書

判示第一、第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六三年一一月一二日付、同月一四日付、同月一九日付、同月二一日付、同月二二日付、同月二三日付、同月二四日付、同月二五日付、同月二六日付、同月二八日付、同月二九日付、同年一二月一日付(353)、同月二日付、同月五日付、同月一〇日付(377)、同月一三日付及び同月二三日付各供述調書

一  第五〇回、第五二回及び第五四回公判調書中の証人山田正明並びに第五六回及び第五七回公判調書中の証人古田収二の各供述部分

一  分離前の相被告人古田収二(昭和六三年一一月一九日付、同年一二月二日付-以上は各謄本、同年一一月二二日付、同月二三日付、同月二五日付、同年一二月七日付、同月一五日付、同月一六日付-以上は各抄本)及び同山田正明(同年一月一一日付二通、同月一三日付、同月一八日付、同年一二月一六日付、同月二一日付-以上は各謄本、同年一一月二四日付、同月二五日付、同月二七日付、同月三〇日付-以上は各抄本)の検察官に対する各供述調書

一  鈴木俊次(昭和六三年一一月二六日付)、越智彰、龍繁雄及び松岡愼二の検察官に対する各供述調書

一  鈴木俊次(昭和六三年三月二九日付、同年四月四日付、同月二六日付、同年五月二日付)及び藤健一に対する収税官吏の各質問てん末書

一  検察事務官作成の平成二年四月二五日付捜査報告書

判示第一の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六三年一一月三〇日付及び同年一二日一日付(352)各供述調書

一  分離前の相被告人古田収二(昭和六三年一一月一四日付、同月二七日付、同月三〇日付、同年一二月一四日付-以上は各抄本、同月一二日付、謄本)及び同山田正明(同月一日付、謄本)の検察官に対する各供述調書

一  奥谷坦(二通)及び竹島脩の検察官に対する各供述調書

一  龍繁雄(三通)、江座暲、鈴木繁晴、大塚憲、金森剛、須永貞男、植松好徳、井上和良、柳瀬睦男及び松延まゆみに対する収税官吏の各質問てん末書

一  収税官吏作成の昭和六三年四月四日付、同年五月一六日付(五通)、同月二五日付(246)、同月三一日付(248)、同年六月一日付(二通)、同月七日付及び同月一〇日付(二通)各査察官調査書

一  東淀川税務署長作成の昭和六三年六月二一日付証明書(236)

一  登記簿謄本(305)及び各閉鎖登記簿謄本(306ないし309)

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六三年一二月八日付及び同月九日付各供述調書

一  分離前の相被告人古田収二(昭和六三年一二月三日付、同月九日付、各抄本)及び同山田正明(同月二日付三通、同月六日付、同月八日付、同月一七日付、各謄本)の検察官に対する各供述調書

一  鈴木俊次(昭和六三年一二月一〇日付、同月一九日付)及び岩下義春の検察官に対する各供述調書

一  鈴木俊次(昭和六三年五月三一日付二通、同年六月一五日付)、越智彰、武笠盛夫、加藤輝雄、余語利功、神谷治及び榎本祐輔に対する収税官吏の各質問てん末書

一  収税官吏作成の昭和六三年五月二七日付(267)、同月三一日付(六通、259、261ないし264、266)、同年一二月一七日付及び同月二〇日付各査察官調査書

一  東淀川税務署長作成の昭和六三年六月二一日付証明書(255)

一  登記簿謄本(310)及び各閉鎖登記簿謄本(311ないし313)

判示第三の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六三年一二月一五日付、同月一七日付、同月二〇日付(二通)、同月二一日付(446)及び同月二二日付(447)各供述調書

一  被告人に対する収税官吏の各質問てん末書一二通

一  片岡一雄(三通)、山口幸夫(二通)及び中島昌司の検察官に対する各供述調書

一  片岡一雄(五通)、山口幸夫(六通)、中島昌司、中山直也及び左近戸憲治に対する収税官吏の各質問てん末書

一  左近戸憲治及び山口幸夫各作成の確認書

一  収税官吏作成の各査察官調査書(昭和六三年五月二五日付二通-386、389、同月二六日付、同月二七日付-388、同月三〇日付二通、同月三一日付二通-391、394、同年六月九日付、同月一五日付、同月二〇日付)及び写真撮影てん末書

一  検察事務官作成の平成元年二月二七日付捜査報告書

一  豊能税務署長作成の昭和六三年六月二三日付証明書(384)

一  登記簿謄本(448)及び各閉鎖登記簿謄本(421ないし424、448)

一  押収してあるゴム印六個(昭和六二年押第八九一号の20の1ないし4、同押号の23の1、2)、印鑑六個(同押号の21の1ないし4、同押号の23の3、4)、未使用領収証七冊(同押号の22の1ないし7)、長期貸付金一覧表等ファイル一綴(同押号の24)、銀行残高メモ等一束(同押号の25)及び総勘定元帳一綴(同押号の26)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年六月及び罰金二〇〇〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中六〇日を右懲役刑に算入し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、昭和五七年から昭和六一年にかけて法人税法違反事件等を惹起した東京パブコ、エルアイシー及びオスカー物産から経理、決算及び税務申告等の嘱託を受けた公認会計士である被告人が、右事件分の本税及び附帯税等を納付する必要に迫られるとともに会社の資金繰り等に窮した右三社の代表者から、法人税ほ脱の協力方を依頼されてこれを承諾し、右各代表者と共謀の上、東京パブコにつき約八億四七六九万円の、エルアイシーにつき約四億七五四二万円の、オスカー物産につき約一億三〇五七万円の法人税をほ脱したという事案であるが、まず、そのほ脱額が右三社合計一四億五三〇〇万円余りと高額であり、ほ脱率も東京パブコにつき約八五パーセント、エルアイシーにつき約七三パーセント、オスカー物産につき約九五パーセントと相当高率である上、犯行の態様も、東京パブコ関係では約一一億二一〇〇万円の仕損品廃棄損失を、エルアイシー関係では約六億八五〇〇万円の材料仕入高を、オスカー物産関係では約二億六九〇〇万円の販売手数料をそれぞれ架空計上したほか、これを糊塗するため、金融機関から借入れを行って、仕入れ代金や販売手数料を支払ったように仮装するなどしたものであって、大規模にして悪質なほ脱事犯といわざるを得ない。被告人は、公認会計士業務の傍ら経営していた会社の倒産により多額の負債を抱え、その返済に窮した挙げ句、古田収二ら前記三社の各代表者の窮極的な思惑が法人税の負担を回避しつつ事業を継続することにより、そのためには脱税の手段によるほかないことを十分に認識しながら、同人らの要請を受諾した上、専門知識を積極的に駆使して前記三社の脱税を指導したものであって、その行為は法律に準拠した公正な財務を指導すべき公認会計士としての職業倫理に背き、その職責に対する自覚を著しく欠くものといわなければならない。また、被告人は、多額の報酬を得るだけでなく、脱税の指導を継続していく過程において、税務調査を回避するための国税当局に対する工作資金等の名目のもとに、前記古田らから高額の資金を引き出し、自己の利益を図っていたものであって、この点も量刑上軽視し得ないものである。

以上の諸点に鑑みると、犯情はよくなく、被告人の刑責は重大であるというべきであるから、被告人が、本件につき反省改悛の情を示し、本件発覚後は国税当局及び検察官に事実を素直に供述し、その結果、前記三社の脱税の全容が明らかとなったこと、被告人は、昭和二八年ころほとんど独学で国家試験に合格して公認会計士となり、その後右業務を発展させて相当の社会的地位を築き上げながら、前記のとおり事業の失敗から本件に加担するに至ったのであって、その経緯には同情の余地がないではなく、今後公認会計士として稼働する途も絶たれたこと、被告人には昭和二〇年代に一度窃盗罪で執行猶予に処せられた前科はあるものの、ほかに前科前歴はないこと、被告人が本件後自宅を含む財産の大半を失ったほか、自らは相当重度の脳軟化症等に罹患し、その妻も膝関節症により病床にあることなど被告人のために酌むべき諸事情を十分考慮しても、懲役刑につきその刑の執行を猶予する余地は見出し難く、被告人を主文のとおりの懲役刑及び罰金刑に処するのはまことにやむを得ないものと思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙波厚 裁判官 的場純男 裁判官 三好幹夫)

別紙(一)

〈省略〉

別紙(二) 税額計算書

〈省略〉

別紙(三)

〈省略〉

別紙(四) 税額計算書

〈省略〉

別紙(五)

〈省略〉

別紙(六) 税額計算書

〈省略〉

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